「竜の子は楽園で目を醒ますIF2」

IFルート2 「メリーバッドエンド・タハト編」
レナが子どもの頃にタハトと結婚していたら……のifストーリーです。読者さんからの要望ではなく私の趣味で書きました。

!決して愉快な話ではありません。ご注意下さい!

「初妻を決めた」

春祭の終わりを告げる鐘と共に、俺はナジ・オドにレナの話をした。たった今、一緒に父親を捜してやった子どものことだ。茶畑と籠編を生業とする家の一人息子、五歳、苗字はない。 

「茶畑……レナ……?」

かの壁に杯を捧げ、祭司と一緒に最後の祈りを終えたばかりのナジ・オドは、ゆっくりと竜顔を振り向ける。そうして、「五歳、男」とがらがら声で繰り返し、意外な表情を作った。
上下に大きく口を開き、喉奥をぐつぐつと震わせて……つまり、笑ったのだ。

「ハハ……赤藍の髪の、レナか……!」

 自分が驚かせるつもりだったのだが、驚かされたのはこちらだった。ナジ・オドがこれまでに挙げた初妻候補にレナは間違いなく居なかったから面食らったが、ナジ・オドはレナを──というよりも、レナの祖母を、知っていた。

「レナ……あれは、宝石であった」

レナの祖母は、名前も同じ『レナ』で、この里で度を越えた美しい女だった。ナジ・オドも初妻にするつもりで居り、『レナ』の家族もそのつもりであったそうだ。だが、俺の記憶通り、『レナ』は族長の初妻にはならなかった。その美しさゆえに、春祭の夜、不届きな男共に攫われた。

 凌辱の限りを尽くされ──ふらふらと里に戻った時には既に、気が触れていたそうだ。話す言葉は幼女のそれで、腹には子が宿っていた。父親は名乗りを上げなかった。というよりも、上げることが出来なかった。

「俺が全員探し出して殺したからな……手足を折って山の獣にくれてやった」

 ナジ・オドは笑いはしていたが、その竜眼は過去にあった。常に長たる威厳を称えたその瞳の奥には、消えぬ恨みの炎があった。ナジ・オドはそれでも、『レナ』を初妻にしようとしたのだそうだ。しかし当時の族長が許さなかった。初妻は穢れ無き乙女でならねばならない。血統が汚れると。

「そうか……お前が俺の……『レナ』の恨みを晴らすか……」
 誰が父か知れぬ子を宿した『レナ』を、ナジ・オドは密かに小さな小屋で守らせたそうだ。しかしレナの父を産み落とした『レナ』は、暫くはナジ・オドの差配の元でレナの父を育ていたが、何か思い出してしまったのだろうか、何度目かの春祭の夜、アケハレの月の元で、首をくくって死んだ。

ナジ・オドはその亡骸を丁重に弔い、まだ子供だったレナの父に生きてゆく術を与えた。しかし──。

「俺も、……小さい男だ……『レナ』の子がその存在が……憎かったのだ」

不幸なことに、レナの父に先の『レナ』の面影はなかった。『レナ』の如く優しくはあったが貧弱な若者で、その姿を見るごとに恨みと後悔が募るために、積極的に関わることはしなくなったそうだ。

 結果、レナの父は里の余りものだった平凡な女を妻に選び、細々と暮らすことになった。そして知らぬ間にレナが生まれ、その赤藍の髪を見るにつけ、『レナ』を思い出す老人は里には居たけれど、レナの父さえも己の出自と母の末路を知らぬことだ。そのつつましい家族の生活を守るべく、老人たちは口をつぐみ……ナジ・オドの耳にレナが『レナ』と生き写しであることは、届かなかった。

俺が、見つけるまでは。

ほんの少し、申し訳ないことをしたと思う。レナとレナ一家にいい暮らしをさせてやりたかった俺は、手が必要なら貸してやり、食糧や燃料が足りていないようであれば分け与えた。それが里の皆には「贔屓」と映ってしまったのだ。そして、彼ら一家はあからさまなやっかみの対象となってしまった。畑におかしな害虫をバラまかれ、この間は家が焼けた。父親は無理がたたり、病床にあるそうだ。

──まあ、実際贔屓なんだが……。

 俺としては、一家丸ごとを抱え込みたいと考えている。あれから月日は経ったが、レナはまだ7歳。成人までまだ倍以上ある。里じゅうをウロついて姿を探すのも面倒だから、結婚はまだできなくとも同じ家に住みたいのだ。

 しかし俺とレナの結婚に諸手を挙げて賛成しているのは現時点でナジ・オドだけだ。

 両親は丈夫で美しい女と直ぐにでも結婚し、子を成せという。レナは幼すぎ、しかも男……だが、俺はレナ以外と結婚する気は全く無い。「時を待て」それがナジ・オドの命だった。

 だから俺は仕事が終わるなり、せっせとレナを探し回る羽目になるわけだ。
 ただ会いたい、その一心で。

──……茶畑か、ツル原か……今日は市は立っていないから、そのどちらかの道中に居るはず。

 あたりをつけて茶畑に足を向けてみれば、摘んだ茶を入れた籠を小さな体に背負い、レナがとことこ歩いているのを見つけた。もう夕暮れだ。赤い髪は橙に色を変え、毛先は夜の色に染まりつつある。楽園に泉があるとするならば、レナの髪の色がその色だ。

綺麗だ──その横顔に感嘆の息を漏らせば、勢い良く駆けてきた三人組のからだの大きな少年たちに、レナは体当たりをされ足を引っかけられた。体勢を崩され無惨に地に打ち付けられた小さな身体は、気丈に文句を言った。

「何するんだよ!」

 しかし彼らはそんなレナをゲラゲラ笑った。

「媚売りの陰男のくせに、働くふりか! 目障りなんだよ!」

丁寧に積んだであろう茶の葉は彼らのサンダルで粉々に踏みにじられた。

「止めろ……っ!」

止めようとするレナの細い体は少年に羽交い締めにされ、どさくさに紛れて腰や尻の辺りに触れられている。

「なあ……タハト様に告げ口したけりゃしろよ……軟弱の報いで、また家が燃えるぜ」

取り残されたレナはまだ、自分が何だと思われ何を罵られているのかも分かっていないようだった。しかし、「家が燃える」の言葉には顔色を変えた。

 ただ赤い唇をぎゅうと噛み、散らばった茶に無言で手を伸ばして拾い集め始める。それが商売道具にならないと分かっているはずなのに、懸命に。

──……。

俺はその様子を、暫く眺めていた。俺の手助けがいつもいつも遅れてしまうのは、苛められるレナさえも可愛くて愛しくてたまらないからだ。泣いてなるものかとじっと我慢をした顔も、血をにじませた細い膝小僧も、転んで乱れた髪の先までも……そのすべてに、見とれてしまう。

「レナどうした、大丈夫か」

 そして、ようやっと俺が声をかけるとびくんと肩を縮ませて、俺を見た。きっと頭には、先ほどの脅しが染み付いているのだろう。

「タハト兄ちゃ……俺、こけて……取った、の……ダメにしちゃった……」

 告げ口をすることなく、耐えていた涙を決壊させた。

「う、うえ、っううう……うええ……俺、なんで……こんな、ダメなの……」

 細い肩を抱いてやると、軽い体がもたれ掛かってくる。俺のようになりたい、強くなりたい、ぐずぐずと崩れた声で繰り返し、最後にはひくひくとしゃくりあげるばかりになる。

「手当て、してやるから……レナはよくやってる。俺だって失敗することもある……さあ」

 おいで、と背中を見せれば籠ごとおずおず乗って来た。

「……飯、食って帰るだろ?」
「んん……でも……母さんたちが……」
「……なら、持って帰れ。それで父さんたちと腹いっぱい食え」

 いいの?

 呟いた声が、首に回った指が可愛い。このまま口に入れて噛み砕いて食ってしまいたいほどかわいい。あと8年……長すぎる。耐えられない、とてもじゃないが……。

──今すぐ欲しい。

 まだ孕ませるのは無理でも、裸の脚を撫で、唇を吸って、胸に抱いて眠りたい。

 その欲望は日毎に増し、レナ以外無価値なこの里にあって収まる兆しがあるはずもない。かの壁に向かい、俺は祈った。

 長命が約束されたナジ・オドの死を。奴さえ死ねば好きに出来る。次の族長は俺だ。父では竜性が足りない……。

──ん……?

 ふと、かの壁に違和感を覚えた。

 神具がぎっしりと飾られた大仰な棚の向こうにある神竜とはじまりの乙女の画……乙女が産んだ子が、我々オド一族の祖先で里の始まりとされていて、その象徴として豊かな黒髪と、神竜の赤い鱗がある……筈なのだが。

 棚を跨ぎ近寄りよくよく眺めてみれば、手を加えられた形跡がある。はじまりの乙女の頭部のあたりの顔料が、やたらと分厚い。爪で削ればぽろぽろと落ちるほど──つまり、細工されている。剥がしてみれば、何が現れるか──。

「タハト……! かの壁に触れてはならぬ!」

 厳しいしゃがれ声に振り向けば、ナジ・オドの険しい視線があった。俺は構わず顔料を剥がし続ける。黒い顔料の下から現れたのは、赤藍色──レナの色だ。

「……」

 暫く視線を合わせていると、ナジ・オドはヒュルル……と不思議な喉音を鳴らした。そして「跡継ぎのお前だから話すのだ」と一族にまつわる「不都合な事実」を語り始めた。

 要は、里を牛耳って百で足りぬ年月を経るオド一族は、正統ではない。どこでどう入れ換えたのかは分からぬが、『レナ』のほうこそが、神竜の正統であった。

「……ナジ・オド……俺がもし、このことを触れ回ったら……どうなるだろうか……不味い……とてつもなく不味いよな、俺たちの権威は地に落ち、里は混乱し……」

 神は居る、居た──実感しながら話す俺に、ナジ・オドは渋い顔で頷いた。「お前の言わんとすることは分かる」と。

 そして、俺は手にいれた。
 レナ一家を……レナを、一族の中に抱え込むことを許可されたのだ。

「……ここに、住む……? 兄ちゃんと?」
「ああ、お前たちの新しい家の辺りまで、六脚獣が降りてきた形跡があった……里の民を守ることも、一族の勤めだからな」
「すごい、ふわふわだよ……ここで寝ていいの?」

 やったあ、と無邪気にレナが跳ねる。

 礼を言いながら咳をする父親と、下品ににやつく母親に、俺は心から微笑みかけた。

 彼らには、近々神の国から迎えが来る。

 そしてレナ……その時から俺とお前の、幸せな暮らしが始まる。両親を失って、お前は暫くは寂しがるだろう。だが、すぐに悲しみは癒える……俺が癒す。

 溢れる程の幸福を、与えてやりたい。
 此処が、お前の楽園だ。

 寝台を覆う薄布が、風もないのに揺れている。
 死者を弔う場であるその内側にレナが入り込み、落ち着かなく動くからだ。

「タハト兄ちゃん……このひと、ほんとに父さんなのかな……? なんか、ちがうひとみたい……」

 8歳になったレナが、命の火が消えた父の傍へちょこんと座り、硬くなった頬やかさついた唇をつついている。掛け布もそろりと剥いで、手も足も触っては「ちがうのじゃないか」と何度も俺を振り返っては問う。

 ろうそくの炎が、レナの小さな顔を照らしている。身体中の水を涙に変えて流し尽くした末の瞼は腫れあがり、目元をぼやりと野暮ったく見せている。それでもレナは美しい。纏った喪失の気配が、美しい。

「レナ……違うように感じるのは、魂が天に近づいている証拠なんだぜ。お前の父さんはもう竜の神様に挨拶をして、はじまりの乙女に抱きしめられている。レナがあんまりつっつくと、父さんがくすぐったくて困っちまうぞ」
「……ん……そ、か……」

 レナは細い指を父の亡骸から離し、組み合わせるようにして膝の上に組んだ。それでもまだ疑いが晴れぬようで、父のことをじいっと見ている。確かに、死が近づくにつれ、彼の容貌は変容して行った。

 元から細かった顔面は皮膚を張り付けた骸骨のようになり、眼球は濁り……それでもレナのことはかろうじて判別して会話はしていたが、それ以外のことは何も出来ず、屍同然の様相だった。

 俺が手を施す必要の無かったことは幸いだった。ただ勝手に弱って死んだ──だが、それは仕方のないことだ。この里には、元より病を癒す者などいないのだ。いるのは、祭司と薬師だけ。祈りも薬も効かぬのならば、死は必然……この里が持つ弱肉強食の恩恵だ。
 悲しみに暮れるレナを、俺は何の含みも無く癒すことが出来る。

「……父さん、死んだほうが幸せだったんだよね。もう、苦しくないんだもんね……」

 俺はその通りだと頷いた。
 繰り返し、毎夜毎夜、言って聞かせておいた言葉だ。

 死は肉体からの開放に過ぎない。
 魂は空へ上り、その果てには天の国がある。善人だけが行ける世界だ。そこには痛みも悲しみも飢えもなく、花が咲き乱れる明るい緑の丘で、それぞれが一番美しかった時の姿でゆっくりと休んでいる──。

 ちなみにこれは、俺がレナの為に考えた作り話だ。かの壁にも口伝にも、死後の世界について語られた文言は無い。
 悪人は地獄に落ちて裁かれ、他は無に帰すのみ……確か、その程度だった。

「でも、そこに母さんは、いないね……会えないね……」

 ぽつんとレナが言うのに、「おばあさんがいるから大丈夫だ」と慰めた。けれど、レナの顔色は一層さえなくなり、新しい涙をぽたぽたとこぼし始めた

「だめ、だね……なっちゃ、った……から」
「ん?」
「ぼく、……前の……いえに、……帰……」

 言い切る前に、俺はレナを父の傍から引き離し、胸元に掻き抱いた。

「何を言ってる……レナはここに居るんだ。いや、この部屋じゃなく、これからは俺の部屋で暮らすんだ」

 でも、と小さい声がレナの母の罪を告げた。自分の母は悪いことをして、それでもここに置いてもらえたのは父が重い病気だったからじゃないのか、と。父が死んだ今、自分はここを出て、一人で前の家に戻るべきなのじゃないかと。

 レナが言う「母の罪」というのは、レナの母が屋敷から金品を持ち出し、屋敷の下男と山の奥へ消えたことを指している。しかし無論それは事実ではない。

 俺がレナの母を眠らせ、岩山の奥の六脚獣の寝床へ寝かせて来ただけの話だ。屋敷から消えた金品も、下男の一人も、適当に選んで一緒に。

 だが、そうだと言われてしまえば信じる以外、レナにも、存命だったレナの父にもない。二人は頭を床にこすりつけんばかりにしてナジ・オドを初めとした俺たちの前で謝罪し、レナの父に至っては鱗をはぐ罰を受けると自ら申し出た。しかし彼らがそのことで罰を受けることは無かった。俺が「寛大な心で赦す」よう、ナジ・オドに掛け合ったからだ。

『傷ついているのは彼らの方だ。罰は罪人に──それが、里の掟……そうだろう、ナジ・オド』

 代理で罰が受けられるのならば、彼らを屋敷に呼び寄せた自分が受ける。そう告げて、その場の誰かが何かを言う前に自らの腕の鱗を二、三枚まとめて素手で剥いだ。他人の鱗を剥いでやったことはあったが、なかなかに痛いものだ。平気な顔をしているのは割と辛かった。

 しかし、その夜のレナを思えばあの程度の痛み等、何でもない。「タハト兄ちゃん、ごめんね、ごめんね……痛い? すごくすごく痛いよね……?」

 俺の傷に濡れた頬を寄せたレナの愛しさへの衝動そのままに、自分の寝床へ運んだ夜。

 仰向けで上下する薄い胸の衣服をはだけ、その胸に置かれた花の蕾を好きに舐めいじった甘い時を思えば、鱗100枚と引き換えにしても安いものだった。

『ンっ……ふ、にい、……ちゃん……っ』

 レナは小さい声をたまに漏らし、何故こんなことをするのかと頬を真っ赤にして問うた。痛みが和らぐと俺が言えばそうなのかと簡単に信じ、胸を濡らされるのを、へそを舌でえぐられるのを背中を震わせ耐えていた。次第に脚の間が落ち着かなくなったレナのそこは、そうっと太ももで刺激した。

『あ、っ……ぁ』

 逃げようとする腰を引き付けて、困ったように見上げてくる瞳は無視して己の昂りを押し付ける。何も知らぬレナは胸の頂を吸われながら、押し回すように股間を押し付けられても、己が導かれつつある場所のことを知らない。

『に、ちゃん、あ、あのね……あのね』

 オシッコに行きたい、レナは耳まで真っ赤にして、そう言った。あまりの可愛さに俺は声を上げて笑い、レナはそれを言うことも笑われたことも余程恥ずかしかったのだろう。大きな目の端に涙をためた。

『だ、て……もれちゃい、そ、なんだも……、あ! あ!』

 当然俺は無視だ。下履きの中に無遠慮に手を入れ、幼いながらも勃起した陰茎をこすり上げ、膨らんだ陰嚢を手のひらで撫でさすり、好きに漏らせと言った。

『構わない……レナ、お前が何をしても可愛いと、俺は何度も言ったろう』
『嫌だ、汚しちゃうのいや、赤ちゃんじゃないも……赦して──母さんのこと、赦して……』

 突然母の名が出て驚いた。辱める罰を受けているのだと思ったのかと思えば、またレナが狂おしい程に愛しくなり、

『やっ──あ、ああぁ……!』

 こらえきれずにレナがぴしゃりと散らした白濁の意味を、呆然とした耳に教えてやった。「結婚する者同士がすることだ」と。愛し合う者同士は、子作りをしなくとも日夜体を合わせる。身体の隅々まで触れ合い、言葉を使わず気持ちを伝えあうのだと。

『気持ち良い……そうは、感じなかったか?』

 体を優しく清めてやり尋ねれば、レナは体中を赤く染め、言葉にすることも頷くこともなかったが、その答えは明らかだった。

 その夜から、レナは俺が誘えば寝床へ来るようになった。「レナを抱いて眠ると幸せだ。疲れも何も消える」そう告げるだけで、自分が役に立つのならばと嬉しそうに腕の中にもぐりこんできた。そして、髪を撫でながらどれほど自分がレナを愛しく思っているか、大事に思っているかを語って聞かせ──快楽を体に教え込んだ。いまひとつピンと来ている様子がない「初妻」になる件も、繰り返し言って聞かせることで「もう決まったこと」だと理解したようだ。

『そんなとこも、触る、の……?』

 まだ体が小さいから、尻の穴を慣らすのに慎重にならざるを得ないのがもどかしいが、焦りは禁物だ。これほど忍耐力を試されることも早々ないから、愉しみと思えばいい。とにかくレナの反応が──戸惑いながら感じる身体が、可愛くてならない。

 それよりも、今面倒に思っているのは、里の女共のことだ。

「本当に俺でいいのかな……男だし、タハトは、すごく人気があるんだ……だから、俺……二番目、とかに……」

 髪を梳かれながら、レナが上目遣いで言うたびに、否定するのが面倒だった。俺は今、レナを徹底的に里の男から遠ざけている。口を聞くな、視界に入れるな、関わるな。用があるなら俺を通せ──脅しをかけたお陰でレナを見るなり里の男は逃げ出すようになった。

 だが、籠編みも茶摘みも、レナは頑固に辞めようとしない。だからどうしても女共の中に入ることになり、髪結いを口実に呼び出されては色々と言われるらしい。俺と結婚するのは図々しいだとか、そもそも同じ屋敷で暮らしているのもおかしいから自分から出ていけとか。特にうっとおしいのが、ファティカとかいう女だ。友達の顔をしてレナに近づいてはしなを作って「お願い」をするのだ。うぶなレナには、たまらないことだろう。あの女にも、近々眠って消えてもらうことにする。

 そうしてレナには、別の仕事を与える。レナが「自分が役に立つ」と納得するような……。

「ンっ……あ、あん、タハト、にいちゃん、そこね、俺……」
「分かってるよレナ、くすぐったいんだよな」
「うん、……だか、ら……」

 あと何年、あと何年だ……わずかながら成長してゆく性器、双丘の奥にある肉壺……果たして、俺は耐えられるだろうか。

 そもそも、成人せねば結婚してはならぬ、子作りをしてはならぬと決めたのは誰だ。厳密にいえば、唇を合わせること、肌に触れ合うことさえも禁じられている筈だ。事実として反故になっている決まりもあるのに、何故婚儀と子作りだけはいけないのか。

──族長になれば……直ぐに変えてやるのだがな。

 汗ばんだ細い身体は、十分に成熟している。後孔は俺のモノを受け入れるには狭すぎるが、それも最近知ったあの「一族の秘薬」が有ればなんとかなりそうだ。
 
 その正体は岩山の向こうに棲む「竜」の分泌液だった。ほんの僅か、神具として語り継がれていたそれを、俺はふとしたきっかけで大量に手に入れることが出来たのだ。

 竜は神ではなく、実存の存在だった。
 あの煩い女を棄てに、岩山へ入って巣を見つけた。それは巨大な竜だった。俺の中の竜の血を嗅ぎ取ったのかなんなのか攻撃はしてこず、ただ交尾に夢中だった。

 どろどろとしたそれは「一族の秘薬」と同じ香りがし、雌竜があまりにもとろりと心地良さげな目つきをしていたものだから、掬い集めて持ち帰ったのだ。

 試しに指にのせ、レナの秘部のひだに塗り込めた途端──。

「っ……は、……う、ぅあ……ぁ」

 レナの反応が、明らかに変化した。何度「にいちゃん」をやめろと言ってもやめなかったレナが、「タハト、タハト」と甘くとろけた声で呼び、言ったのだ。

「欲しい」

と。

「子ども、ほしい、ほしいの……ここに、いっぱい欲しい……」

 指で、唾液で、膏薬でいくらほぐしても指二本入れるのがやっとだったそこが、口のように赤くぱかりと開いてひくひくと蠢き、俺を誘っている。
 ならば、もう俺がすべきことは一つだけ。
 そもそも、気に食わなかったのだ。

「おじいちゃん……『レナ』おばあちゃんの話をして?」

 事あるごとに、ナジ・オドの膝で甘えるレナも、

「ああ……いくらでも話すさ。なら、代わりに歌をうたってくれるかい? なんでも良いが……ああ、あの歌が良い。夜の竜のうただ。月の下を夜の王と共に彼らの群れが飛ぶ歌……」

 遠い目をして、レナに可憐な声で歌わせ、髪や肩を撫でるナジ・オドも。

 日頃から欠かさぬ俺の鍛錬に熱が入るのを、ナジ・オドは満足げに眺めている。お前に任せれば安心だと、繰り返される『レナ』の昔話は右から左だ。

「兄ちゃん、ど……したの?」

 俺の変化を、レナは僅かに感じ取ったようだ。慌てて笑顔を作るのは、至極簡単なことだ。
 レナのきらきらとした瞳を両目に映せば、造作ない。

 楽園では、笑顔でいなくてはな。

「腹が減ったんだ……レナを食ってやりたい程だ」

 細い腕に竜牙をあてれば、レナはコロコロと鈴を鳴らす声で笑った。
 それは俺の耳にはナジ・オドの葬儀の百鐘であり──俺が族長となる百鐘だ。
 
 レナ、レナ、レナ──。

 さて、あの老害のどこを斬れば再生せぬだろうか。
 そもそも、レナさえ居れば里さえも要らぬ。

──……全て、焼いてしまうのも良いか……。

 そして、二人で里を作り直す。かの壁に描かれた真実の通りに。

 レナ、お前は、はじまりの乙女だ。そして……俺は神竜に成る。

END

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