9話

学校に着くなり、僕はお地蔵さんへの怒りをそのまま地味女にぶつけるべく、二つ隣のクラスに突撃した。

「末黒さん、ちょっと僕と話しようよ」

僕が声をかけると、黒髪が振り返った。その顔を見て不思議な気持ちになった。なんとなく、違わないか。地味じゃない。むしろ、ちょっとかわいい。

教室が微妙にザワつきはじめたので、僕は末黒さんを引きずるようにして空き教室へ連れ出した。さあ、文句を言ってやろうと息を吸ったその時、末黒さんが僕の手を握りしめた。

「ありがとう!藤澤君、部屋を片付けてくれて。あと、お母さんの料理をいっぱい、褒めてくれたんだよね。弟の勉強をみてくれたり、ちひろとさやかの愚痴をずーっと聞き続けて、悩みを解決してくれたり、私、今朝起きて、あまりにも周りが変わっててびっくりしたの!」

これも、これも、と興奮気味にスカートのポケットからちひろがくれた使いかけのアイプチを取りだした。「目が大きくなったら、きっとさちは美人になるよ」と言われたけれど、美人になりたくないのでそのままにしていたのだ。なるほど、それを使った訳か。「私、今まで自分がブスでみんなに嫌われてると思ってて自信がなかったけど、藤澤君のお陰で変われたの!」

……それは、それは、何よりです。

「ありがとう!本当に!」再度、僕の手を握り直し、さっさと立ち去ろうとした。「ちょっと待って!」と呼びとめた僕に「あ、いっけない☆」と少女漫画の主人公みたいなリアクションで振り返った。「今日は、白石君の番だからね!やらしいことする、順番。ちゃんと平等にしないと、またみんなモメちゃうから、気をつけなきゃだめだよ!」

……。

…………。

あ、いっけない☆あまりのトンデモ発言に真っ白になってしまった。

僕はじゃーね、と手を振る末黒さんの背中に叫んだ。

「お前さ!他人の体なんだと思ってるんだよ??ローテーションとかありえないから!!」

末黒さんは、きょとんとした顔になった。

「あんなイケメン達に言い寄られて嬉しくないの?」
「う、嬉しくないよ!別に僕は何とも思ってないんだから!!」
「勿体ないよー」

軽い、軽すぎる。

はあああああ???という気持ちが強すぎて口から内臓が出てきそうだ。

「ハーレムだよ?王子様だよ?」
違う違う!絶対違う!!

「そういうことは、好きな人一人とするもんだ!!」

末黒さんはあっ!!という顔になった。

「佐々君……それで」
「ん?」
「私、佐々君いいなあ、って思ってたんだけど、佐々君とはそういう雰囲気にならなくて。むしろどんどん離れてくみたいで。……きっと、佐々君は藤澤君を一人占めしたかったんだね!」
「へ?」

あーすっきりしたあ、モヤモヤしてたの、と言いながら、末黒幸は消えた。

佐々が、僕を?

昼休みになって、ドキドキしながら佐々のクラスを訪ねた。末黒さんが言うように、佐々が僕をどう思ってるのか、確かめたい。けれど教室に佐々はいなかった。最後の約束さえ放棄されてしまったのかと思ったら、気分が悪いと保健室に行ったと誰かが教えてくれた。慌てて保健室に急行したけれど、佐々どころか、誰もいなかった。急に僕も頭痛がしてきたからベッドで休ませてもらうことにしたら、すぐに校医がカーテンを開けて入って来た。

「藤澤君、大丈夫?」
「あ、ちょっと頭痛」

言い終わる前に

「心配だな、診察するね」

と、突如シャツのボタンを外し始めた。いやいや、頭痛だから。

「なんてことだ!これは。湿疹が酷いね」

忘れてた。僕の身体はキスマークだらけなんだった。「いや、これはその」と言い訳しながら胸を隠そうとしたら、「クリームを塗ってあげよう」と何故だか乳首にクリームを塗ってきた。ちょっと触れられただけなのに、びくびく、と身体が痙攣する。なんだこれ?このぐらいでこんなに反応するのおかしくないか?「こんなに膨れて」校医は執拗にクリームを塗り込み続ける。「あ、あん」僕はたまらず声を上げてしまい、赤面した。末黒さんが敷いたローテーション制で、乳首責めを仕込まれてしまったらしい。

こんなの、もう、耐えられない。
僕は乳首をいじり続ける校医を蹴り飛ばして、社へ逃げた。

「お地蔵さん、お願いを叶えてくれてありがとう。でも、とっても、微妙な結果になりました。どうかどうか、もう一度、誰かと交換してください。「誰か」じゃなくても、もういいです。その辺の石でも、なんでもいいです。僕は僕でいたくないんです。今日はお水はないけど、次回は必ず……」

言い終わる前に、お地蔵さんが倒れた。

僕はビックリして起こそうとした。びくともしない。

-だめだ、こいつはもう使えない。

もう、終わりだ。

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