8話

ありえないありえない、を僕は頭の中で繰り返した。どう考えても、これはヤられている。僕がずっとずっとずっと、守ってきたものが、ほんの一週間でめちゃくちゃにされてしまった。僕は忌々しい気持ちで、学校に行く準備を始めた。一体誰がこんな体にしたんだ。スマホを見るのが怖かったけれど、予備知識として知っておかないと悲惨なことになりそうだ。とりあえず佐々への弁当を詰める。佐々、何が好きなんだろう……知らない。いつも、なんでも、もぐもぐ食べているから特に気に留めていなかった。とりあえずなんでもかんでも適当に入れる。そしてふと、「相手、佐々かも」と思いついた。だって、朝も、昼も一緒だしさ。僕は急にわくわくし始めて、スマホを見た。そして、すぐ絶望した。

-昨日は最高だった。次は水曜日だな。色々考えとく。

緑川からだった。僕の後ろに変なものを入れたのは、緑川なんだな、と思いきや、

-ちゃんと後ろに入れて寝たか?広げとかないと、また入らないからな

麓王からだった。こいつかよ……「また」入らないって、何だよ……全身の力が抜けていく。やけくそで最後の一人、白石のメッセージを確認する。

-葵衣、今日の放課後、楽しみにしててね。君をお姫様にしてあげる。

い、ら、な、い、よ!!何の約束してんだよ地味女!!

佐々は?佐々はどう言ってるんだ?

……何も、来てない。

むしろ、僕、というか末黒さんから「また明日ね」というメッセージを送っているのに、返事が無い。急に不安になって、弁当を抱えて駅に急いだ。もう、遅刻寸前だ。いつの電車に乗る約束をしてるんだろう。乗る駅は同じはずだけど。

僕がホームに駆け込むと、佐々が僕を見つけてベンチから立ち上がるのが見えた。待っていてくれてる、とほっとして駆け寄った僕に佐々は言った。「葵衣、一緒に登校するの、今日で最後にして欲しい」

え??……今日からやっと、僕は僕なのに。

「ど、どうして」佐々はろくに僕の方を見ない。「葵衣には、たくさん、守ってくれる人がいるだろ。友達だってたくさんいる。そいつらに頼めばいいじゃんか」僕には、友達と呼べる人なんて、佐々しかいない。守ってくれる人なんか、もっといない。犯そうとしてくる人ならいくらでもいるけど。僕は黙ったまま横で吊革を持っている佐々をチラチラ見ていた。

一度も目が合わない。

「佐々、あの、今日の昼」右手が妙に重く感じる。弁当が多すぎた。「それも、今日で最後にして」ああ……そんな。僕の目に、涙が浮かんできた。バレないように下を向いた。なんで、僕になったとたん、冷たくなったんだろう。地味女とは仲良くしてたのに。

結局、前と同じだ。いや、むしろひどくなってる。僕は地味女になったせいで、温かい家庭と友達を知ってしまって、自分がいかに孤独か思い知った。そして地味女が僕になって滅茶苦茶したせいで、今まで守ってきたものが台無しになった。

全部、全部佐々のために守ってきたものなのに。

クソ地蔵め。二度とお前になんかお参りしない。
お水だってあげない。
むしろ、燃やしてやる。

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