6話

ちょっと気になったから、昼飯を食べ終わってから、地味女のクラスを覗いてみることにした。なぜか、僕がいた。そして、さらに謎なことに、昨日絶縁宣言された佐々と弁当を食っていた。佐々は僕に何やら話しかけては、僕の家のタッパーから次々とおいしそうに口におかずを運んでいる。なんだかわからないけど、地味女が佐々との関係を修復してくれたみたいだ。弁当を佐々の分も用意して行った、ってことか。なるほど、そういう謝りかたがあったのか、と感心した。

元に戻っても、佐々とまた昼飯を食べられるということが、僕は嬉しかった。

さあ、地味女として、今日は街にでも出てみるか。
僕はちひろとさやかを誘って、お茶をしに行くことにした。誰も、僕たちに気を留める人はいない。三人でおいしいケーキを食べて、お茶をゆっくり飲んだ。不必要に水を足されたりすることもなければ、お釣りを渡すついでに手をぎゅっと握られることもない。むしろ小銭が投げ返される。なんてすばらしいんだろう。みんな僕のことなんか、どうでもいい。僕にどう思われたって、気にも留めない。

……それって、いいのかな。なんか、それはそれで、寂しくない?一日目にして、ちょっと心が萎えかけた。思っていたよりも、地味女は地味女で辛いのかもしれない。

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佐々君とのランチタイムは幸せだった。「今日の葵衣は、よく笑うね」佐々君はおいしそうに私が作った(詰めただけ)のお弁当を食べる。「また明日も、持ってくるね」私はやっぱり、こっちのほんわかの方がいい。麓王くんが最後に言っていた「初体験プラン用意する」はちょっと気になったけど、まあ、いいや。やっぱり、美少年は最高だ。このままずっと、藤澤君でいられたらいいのに。

鼻歌まじりで下校すると、黒塗りの車が突然進路を塞いできた。びっくりしてよけようとすると、その中から学校で一番お金持ちと言われている白石君が出てきた。いかにも裕福な雰囲気を持った、上品なたたずまいをしている。彼も計算高い女の子を中心に絶大な人気があり、取り巻きを常に連れている。「葵衣、送ってあげるよ」扉を開けて、王子様みたいにどうぞ、と中へ案内してきた。さすが、さすがだ。せっかくなので、送ってもらうことにした。乗り込む私を見て、白石君は「おや」という顔をしている。ひょっとしたら、藤澤君はいつも乗らないのかもしれない。

「嬉しいな、やっと乗ってくれた」

……やっぱり。そして車が動き出すや否や、顎を掴んで顔を近づけてきた。なんだかいい香りがする。私は静かに目を閉じた。これが本当なら、玉の輿じゃないか。白石君はかわいい「ちゅっ」というキスではなくて、ディープなほうのキスを始めた。「んぐぐ……」キス自体初めてなのに、突然完全に口を塞がれて、息の仕方が分からなくなった。苦しい、という意味をこめてどんどん、と胸を叩く。「葵衣、車に乗ったくせに、往生際が悪いよ?」口が離れたので、ようやく息ができてぜえぜえいった。「違う、息ができなくて、くるしいから」ぷっと白石君が吹き出す。「葵衣、鼻で息すればいいだろ?」あ、そうか。私はえへへ、と笑って頭をかいた。白石君の顔が、みるみる赤くなる。「葵衣、それは反則だよ、可愛すぎるよ」そ、そうだった?またキスが始まった。舌が口の中を動き回って、頭がぼーっとなってきた。手も太もものあたりを撫でて、そのまま中心に触れ始めた。「あ、あの、そこは」「そこは?」「そこは、その……あの、車の中では、ちょっと」白石君は、ああ、という顔になった。「なら、続きは僕のうちで」

そして白石君の家に着いた私は、速攻ベッドに押し倒された。そしてまたアレをされそうになったので、麓王君に言ったのと同じ方法を応用して、「こんな適当な流れで初体験はいやだ」と言って難を逃れた。

モテるのはいいけれど、最終的に痛い目に会いそうになるのが困る。藤澤君は、今までどうやって生きてきたんだろう。痴漢にあっても平気な顔をしていた理由が、ちょっと分かった気がした。

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