ラテアート

 くまの気分だったんで

 そう言って笑った君のことを思い出す。ごつい体の大きな手が差し出すのは、やたらかわいいクマの立体ラテアート。カップから見つめてくる丸い目の中には、ミルクの泡の星まで見えた。

 おおはしゃぎする僕の前で、君はどこか得意気で。

 あの頃は良かったな、僕はただの客で、君に好かれていなかったけど、嫌われてもいなかった。

「……どうしてこんなこと」

 それは言えない。でもこれが君にとって、僕がしてあげられるただ一つのことだ。

 この春、君はあのカフェを辞める。小遣い稼ぎのバイトから、自立した社会人になる。そんな君の未来に、男の僕は、絶対邪魔になる。

 だから、わざと浮気した。見せつけるように跡をたくさんつけさせて、酔っぱらって帰ったんだ。

「言い訳も無しなのか」

 そうだよ、僕は完全黙秘を貫く。何か少しでも言ったら、きっとあふれ出してしまうから。

 ふいに君が席を立つ。そしてカップと一緒に戻ってきた。

「……あんまりうまくいかなかった……」

 差し出されたカップに、僕の視界が歪んで滲む。

「思い出して欲しくてさ」

 そこにはいびつな、でもすぐにそれと分かる、丸い目をしたあいつがいた。

「話を聞かせて」そう言う君に、僕は小さく頷いた。

END

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