(拍手SS)転生前彼氏2

◆奏多が死ぬ前の奏多目線のお話◆

「諦めなって。あいつは無理だよ……顔は可愛いけどいくらなんでも性格キツすぎる」
「あのひねくれ方、絶対トラウマ持ちだって」
「奏多なら他にいくらでも選べるだろ。性格悪い男なんか選ばなくたってさ。もっと視野を広く持てよ」
「あいつのこと難攻不落ってあだ名で呼んでる奴いた」

 勅使河原に惚れて以来五万回言われた定型文を、また言われる。一語たりとも同意できない俺は、視野が狭いのは皆の方だと思う。

 でも否定する気は無い。ちょっとした仕草一つもかわいい勅使河原の魅力に、たかだか口調が荒い程度で気づけないならその方がいい。

「はあ、可愛い……勅使河原……てっしー……いや、とも……」

──トモーー! トモって呼ぼう!

 呼び方が決まったところで、隠し撮りした写真をもう一度頭から順に眺めていく。一枚目はぎゅっと唇を噛んで電車を待っている所。二枚目は友達に話しかけられて、何を言われたのか知らないがフンと横を向いた瞬間。三枚目は一人で食堂の隅に座り、並べた三個のパンをどれから食べようか迷っているへの字口。

「ああ! トモの写真全部尊い! 順位なんかつけられない!」
「つける必要ないって……お前最近ちょっと怖い」

──……何を言う。

「俺にはむしろお前らの方が分からない。さてはお前たち、恋をしたこと無いんだろう。気の毒な奴等だ」
「いやあるけど……お前のそれは何か違くない……って、何、お前勅使河原って漢字で書けるの」
「違くないし書けて当たり前だ! こんなに練習したからな!」

 今しがた勅使河原朋章とボールペンで書いた紙ナフキンの上に、びっしり「勅使河原朋章」で埋め尽くされたルーズリーフを置いた。途端、静まり返るテーブル。「恐い」って何がだ。俺にしたら、淡白過ぎるお前らの方が怖いって。

 好きな子がいたらフルネームぐらい覚えるだろ? 下の名前自分の名前にしたりするだろ? 生年月日血液型星座あらゆる分野の好き嫌い、全部知りたいと思うだろ? 

 ちなみに俺今、勅使河原の実家の住所まで何も見ないで書けますけど。個人情報漏洩じゃねえよ。そのうち俺の個人情報と同じになるから問題無い。

「……そ、そう……、い、いや、あのさあ奏多」

 そして繰り返される定型文。でもそんなもので揺らぐ俺の気持ちではない。トモの恋人になりたい、それがダメなら友達、それもダメなら……そうだ、毎日何故か挨拶をかわす人。それでもいい。いや、良くない。何だそれ。

 とにかく勅使河原は可愛い。それだけが俺の真実だ。

 毎日地道なプレゼンを続けた結果、俺の熱意に負けた友達が一人、二人と勅使河原情報を入手して持ってきてくれるようになった。それはてっしー情報として掲示板に集約される。

『てっしーゲーム好きみたい。スマホじゃなくて、テレビでやる方の』

 ある日その書きこみを見た俺は、全く門外漢だったゲームのことを調べ始めた。そこで見つけたのが「ジ・エターナルタイズ」というオンライン謎ときアクションRPGだ。

──ウワアア……ッ! 何これ……! 二人一組で? 息を合わせて? 吐息を合わせて? からの? 身体も? 合わせちゃう的な?

「運・命! 俺、これをトモとやることに決めた! 待って待って……──はい、ハードもソフトもポチった。メモリーカードそして課金用のプリカに諭吉をチャージ」
「早ええよ……口きいたこともねえじゃん……」
「早くはない! むしろ遅いぐらいだ」
「なあ、そもそも勅使河原それやってんの」

 知らん。

 でも、俺が、これをトモとやりたいんだ。
 そう、もう、ゲームが届く明日からでもやりたい。
 
 そしてその後、別のこともヤれたらいいなあと思う。

 俺は満を持してファーストコンタクトを取ることにした。ネタは勅使河原気に入りの、駅裏の入り組んだ路地の中にあるパン屋。(てっしー情報掲示板参照)大学から店まで徒歩片道10分、つまり往復20分、それだけ時間があれば十分だ。「そのパンどこで売ってるの」から始めて案内してもらって、その間にゲームしよって誘うんだ……。

「場所? スマホで調べろや」

──エっ……。

 まさかの超塩対応だ。人生で初めて浴びせられる岩塩が痛い。え、えっとえっと、待って。えーと、えーと……。

 そうだ、それならばここは男らしく、直球勝負で行こうじゃないか。

「じ、実は三日前すれ違って……かわいいなと思って……これを機にお近づきに……これはつまり、ナンパなんだけど」
「はあ? キモいんじゃ!」

 えっと思う間も無く脱兎のごとく逃げられた。
 この取りつくシマの無さ。評判にたがわぬ難攻不落。

 どうだったかと興味津々の友人に俺は首を振る。「ほらやっぱり」の声に包まれるけど、俺は失敗したなんて思ってない。今までコッソリ見ていただけのトモが俺を見て、返事をしてくれたのだから。想像がやや先走っていたことは否めないけれど、俺の存在を知らしめた、そのことは大いなる一歩だ。

 いつか一緒に、ゲームがしたい。

 それから、俺を名前で呼んで欲しい。色んな事を話したいし、誰も知らないことを知りたい。例えば、性感帯とか。

 それから、それから、それから──。

 とにかくずっと、一緒に居たい。

END

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